【Introduction of Iwakura 63】
□分類:信仰設備(広義のイワクラ)
□信仰状況:祭祀されていないが過去に信仰の形跡あり
□岩石の形状:巨岩組、上部の岩はメンヒル(立石)
□備考:墳墓との伝説から信仰設備に分類、天文利用のための岩石遺構の可能性あり
□住所: 鳥取県西伯郡南部町
□緯度経度:35°20'01.27"N 133°21'50.16"E
(googleに入力すれば場所が表示されます)
鳥取県南部町に「天宮さん」と呼ばれる謎の巨岩組があります。
1889年(明治22年)に、金田熊野神社の神職であった山本熊雄は、「『古事記』に、伊邪那美は出雲国と伯耆国の境の比婆山に葬られたと書かれているが、この場所は鳥取県西伯郡賀野村の大蔵山の中腹の「比婆ケいち」と呼ばれる所である。この近くの金田熊野神社の御祭神は伊弉諾尊と伊弉冉尊の二柱と御子の軻遇突智である。伊弉諾尊が軻遇突智を産んで亡くなったのは御内谷であり、その御陵が「天宮さん」である。」と主張しました。山本氏は鳥取県知事に「天宮さん」の調査を要請しましたが、聞き入れられませんでした。
1926年(大正15年)に、鳥居龍蔵がここを訪れ、次のような見解を述べました。「この遺跡は大きな石の上に長さ十七尺(幅十尺)くらいの一本の巨石を立て、これに二本の巨石が支えて居る。中心の巨石の周囲には石が立てられて居る。これはもと同村の人々が高貴な神の墳墓であると崇信して居るので、私に是非見てもらいたいというから、ここに行って見たのです。しかるにこれは明らかに巨石遺跡で、中央の巨石はメンヒルで、周囲の石はストーンサークルである。しかもメンヒルとしては最も大きなものです。」
鳥居龍蔵がこのように評価したために「天宮さん」を参拝するブームが起こりました。賀野村史蹟調査保存会が設立され、参拝者は伯陽電鉄の手間駅から御内谷まで行列をなし、赤白の幟が立ち、茶菓子や酒を提供する露店で賑わったそうです。
「天宮さん」の周辺の岩石配置のスケッチ図が残っています。筆者は、徳島県立鳥居龍蔵記念博物館にスケッチ図をお見せし、この図は鳥居龍蔵が書いた図であるのか調べていただいたところ、鳥居龍蔵のフィールドノートとの比較から鳥居龍蔵の直筆ではないだろうとの見解でした。つまり、地元の人が描いた可能性が高くなりました。
2015年11月28日に、地元から要請があり、鳥取荒神神楽研究会のコーディネイトでイワクラ学会による「天宮さん」プレ調査が実施されました。目的は、この「天宮さん」が価値のあるものなのかどうかを見極めることでした。
「天宮さん」は、標高198メートルの位置にあり、横幅4メートル、高さ5メートルの主石を立てた状態になるように組み合わされ、土台部分には小さな岩屋が形成されています。この岩の東面は20メートル以上もの高さの絶壁となっており、下から岩石が組みあがっているようにも見えます。また、木々が生い茂ってなければ、この岩は、朝日を浴びて輝いていたと推測します。逆に「天宮さん」からは、美しい大山が望めたのでしょう。また、天文考古学的遺跡としての可能性については、冬至の日の入り時に太陽の光が「天宮さん」の西側の小さい岩屋に差し込むのではないか、「天宮さん」の東側の平らな面を夏至の日の出の光が照らし出すのではないか、スケッチ図のように「天宮さん」の周りの山中にストーンサークルが多く存在しているなら岩を使って星座を形成している可能性があるのではないか、などの可能性を指摘しました。一方、スケッチ図には多くのストーンサークルが表示されていますが、プレ調査では発見はできませんでした。ストーンサークルが発見できれば、人工的に造られた可能性が高くなります。
イワクラ学会としては、もっと詳しく調べる価値があるとの結論でしたが、本格調査の実施について、まずこの場所をオープン(観光化)にしていいのかどうか地元の方々で話し合っていただくことになりました。
2023年6月25日に、地元の中海テレビの「諸説あり」という番組で、この「天宮さん」が取り上げられました。著者も登場して、「天宮さん」の魅力をお話しました。
「天宮さん」は、現在祭祀されていませんが、山本熊雄の説を採用するとイザナミの墳墓ということになります。一方、天文考古学的な仕組みについては可能性が指摘された段階です。
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