【Introduction of Iwakura 98】
□分類:岩石信仰(広義のイワクラ)
□信仰状況:神社に祭祀されている
□岩石の形状:岩単体、亀石
□備考:人工物、周辺に盃状穴、江戸時代以降に祭祀されたと推測
□住所:岡山県岡山市東区水門町
□緯度経度:34°36'29.24"N 134°03'37.06"E
(googleに入力すれば場所が表示されます)
吉井川東河口の水門町の水門湾付近に亀石(かめいわ)神社があります。海に突き出た長床式拝殿が特徴的な神社ですが、御神体は2メートル弱の大きさの亀の形をした岩です。
御祭神は、珍彦命(うづひこのみこと)と海童神(わだつみのかみ)で、立看板には「神武天皇の水先案内をした神が乗った大亀の化身(亀岩)を祭った神社」と書かれています。これは、『日本書紀』や『古事記』の話がベースになったものと考えられます。
『日本書紀』によると、神武天皇が速吸之門にさしかかると、漁人が小舟に乗ってやってきて、天皇が「お前は誰か」と尋ねると、「私は土着の神で、珍彦(うずひこ)と申します。天つ神の御子がおいでになると聞いて、お迎えに参りました」と答えました。天皇は、漁人に椎竿の先を差し出し、つかまらせて舟の中に引き入れ、水先案内とされました。そして椎根津彦(しいねつひこ)という名を与えました。これは倭直(やまとのあたい)の先祖となります。『古事記』では、亀の甲に乗り釣つりをしている姿で書かれています。
また、この神社は、大潮となる旧暦6月15日の満月の夜に行われる満潮祭が有名で、船に提灯を飾った屋形船(シャギリ船)がお囃子や笛や太鼓などを鳴らしながら水門湾内を巡航します。
亀石には、玉垣の中にある小石でイボをこするとイボが取れるという言い伝えがあります。また、鳥居脇の岩には盃状穴があり、この場所で、岩石に対する祈りが行われていた形跡があります。
江戸時代中期には、池田綱政が、この亀石を後楽園の庭石にしようと船で運び出しましたが、途中で船が動かなくなり亀岩を投げ捨てました。ところが夜な夜な光を発するなどの怪奇が起こったので、亀石を元の場所に戻した。という話が残っています。この亀石はイボ取りの霊石でもあり祟石でもあるようです。
亀石神社から北に2.5キロメートル離れた場所に、亀石神社の御祭神と同じ珍彦命を祀る神前(かむさき)神社が鎮座しています。亀石神社は神前神社の境外末社になっているようです。
さて、この亀石が人々の崇拝を受ける岩石であることは確かですが、いつの頃から信仰されたのかが問題です。
「亀石神社」が神社として祀られるようになったのは、宝暦年間(1751~1764年)です。神社となる前にも神前神社から宮司が訪れて亀石の前で神事を行っていたと云われていますので亀石の信仰は1751年以前に遡ります。ただし、このあたりが干拓されたのが1684年ですから、それ以前の亀石が現在と同じ位置であったのなら海の中でした。海の中にある岩石を信仰することは考えにくいことです。したがって、亀石の信仰が江戸時代より遡るためには、亀石が現在地よりも標高の高い場所にあったことになりますが、そのような記録は見つけられていません。情報をお持ちの方は教えてください。
現時点では、次のように推測しています。
1684年に干拓が始まったことにより、海の中から亀に似た岩が出現した。これを後楽園の庭石にしようとしたが、怪奇が起こったため元の場所に戻した。そして、干潮時には全身を表し満潮時には首だけ海面に顔を出すように亀石を置いて祭祀が始まった。
この推測が正しければ、亀石と珍彦命の関係は、神社で祀るために江戸時代に作られた話となります。また、神前神社の御祭神も怪しくなってきます。神前神社は備前国神名帳の邑久郡に正三位神前大明神として記載されている古社ですが、1876年までの御祭神は猿田彦命であったようです。
したがって、亀石は、江戸時代から石神として信仰されはじめ、神社が創建されてからは磐座として祀られていると考えます。亀石の形状は自然に形成されたものかもしれませんが、一度動かされていますので、人の手が加わった人工物となります。
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